
オーケストラのまとめ役!
僕は東京フィルハーモニー交響楽団というオーケストラのソロ・コンサートマスターをしています。オーケストラの前で、指揮棒を振っている指揮者は音楽の演出家。同じ曲でも、指揮者がその曲をどう表現したいかによって曲のイメージやテンポなんかが変わるんだ。僕達の東京フィルハーモニー交響楽団にも、いろいろな指揮者が来るんだけど、オーケストラのメンバーがそれぞれの感覚で指揮者の表現を理解しようとすると、演奏がバラバラになってしまう。そこで僕の出番。指揮者の一番の協力者として、メンバ-全員の息がぴったり合うようにと考えながら、身体の動きを使ってまとめていくんだ。一言で言うと、コンサートマスターとは、オーケストラをまとめる「リーダー」ってことになるかな。
「空気が読める」ことが大事
具体的な仕事の内容としては、最初は楽譜読み。ヴァイオリンを例に取ってみると、例えば演奏する時の弓の上げ下げ(ボーイング)なんかも決めておく。楽譜には弓をどう動かすかまで書いてないことがほとんどなんだ。ヴァイオリンの弓を上げて弾くか下げて弾くかによって音の出方って変わるし、オーケストラで弓の動きがみんなバラバラだったら格好悪いでしょ?あとは、同じ旋律でも、哀愁を込めて弾くのか、激しく弾くのか…とか、そういうこともみんなの意見を合わせておく。指揮者が何を僕達に求めているのかを察知する能力も大切だね。今風に言うと「KY(空気が読めない)」じゃいけないってことかな。指揮者の人は練習中にずっと一緒ってわけじゃない。それに、ハッキリとした動きで指揮棒を振るんじゃなくて、イメージで指揮棒を振る指揮者の人もいるんだ。だから、コンサートマスターである僕が「この指揮者の人はこの曲をどういう風に表現したいのかな」ってことを敏感に汲み取って、みんなに指示する必要があるんだ。
とにかくニコニコ
僕達はプロだから、コンサートで失敗は許されない。いつも緊張感があるし、指揮者の人によっては僕達のイメージと全然違う表現を求められることもあったり、他にも、もらった楽譜が間違いだらけなんてこともある。だから、時にはオーケストラのメンバーの士気がなんとなく上がらないこともある。でもそんなとき、僕も一緒になってどんよりしてたらダメだよね。で、どうするかっていうと…「とにかくいつも笑う!」。ハハハ。でもほんとなんだ。僕が「大丈夫、なんとかなるさ」って楽観的にドーンと構えることで、みんなの緊張も少しずつほぐれていくんだよ。
自分達の音楽として弾く
みんなをまとめるだけではなくて、ヴァイオリンの第一奏者として演奏することも僕の仕事。指揮者の人がその曲をどう表現したいのかを”理解しながら”、弾くんだ。それは、指揮者の人と同じ気持ちになって、”自分達の音楽として弾く”という感覚。それくらいにまで集中して演奏すると、自分の演奏も、メンバーの演奏もすべてのことに自然と意識がいきわたる。だから、オーケストラをまとめることと、自分が演奏することは、別々のことではなくてひとつのことなんだ。
毎日弾いている
僕達は定期演奏会やオペラ公演でのオーケストラ演奏などに出るので、普通のサラリーマンの人のように、月~金で働いて土日が休みという決まったスケジュールじゃない。もちろん、練習もあるわけだけど、みんなと練習する前には、前もって自分の練習しておく必要もあるよね。だから、休みの日があっても、なんだかんだ言ってヴァイオリンを弾いている。つまり、毎日弾いているわけなので、そういう意味では仕事と休みの区別があまりないかもしれない。それくらいに、音楽のことが好きってことでもあるね。
一度味わったら忘れられない、すばらしい感情
僕達オーケストラの演奏は、生のもの。一度だって同じものはできない。そのホールの雰囲気、お客さんの熱気、期待、拍手…いろんな要素が組み合わさって、オーケストラのみんなが「今」という時間を共有しながら、ひとつの演奏を創り上げる。スポーツと違って勝ち負けはないけど、ある一定の枠の中で、ひとつの頂上に向かって皆で力を合わせて達成したときの充実感や達成感、高揚した気持ちというのは、ほんとうに得がたい感情なんだ。一度味わったら忘れられない、すばらしい感情。その演奏をするまでの道のりが苦しければ苦しいほど、その感情は熱いものになる。その感情を次も味わいたくて、僕は演奏をし続けているのかもしれない。
とにかく「音楽家になる」
僕は音楽一家に生まれたわけでもなかったけど、4、5歳の頃、兄が弾かなくなったオルガンが家にあって、とても興味を持った。そして、家にあった蓄音機に片っ端からレコードをかけては聴いていたらしい。夜中に突然起きだして、こたつにくるまりながら聴き始めることもあったぐらいに音楽が好きな子どもだったんだ。だから、小学生のときには、何を弾く、どんな音楽家かまでは決めてなかったけど、とにかく「音楽家になる」って決めてたんだ。
好きなものに打ち込めば、きっと道ができる
僕が小学校4年で音楽クラブに入って、出会ったのがヴァイオリン。それ以来、ヴァイオリンの魅力にはまってしまって、好きで好きでしょうがなくなった。そして、小学校6年生ぐらいからちゃんと練習し始めた。僕は、ソロのヴァイオリニストとしても活動しているんだけど、小学校6年生からというのは一般的な考え方からすると遅いスタートなのかもしれない。でも、物心がつく前から弾くことを始めても、大きくなるうちにそれが苦痛になってしまったら意味がない。プロのギタリストとか、管楽器の奏者には、高校生ぐらいで初めて楽器を持ったって人も大勢いる。これって、好きなら上手になれるということじゃないかな。だから、好きになったときが始めどき。好きなものに一生懸命打ち込めば、きっと道ができると思うんだ。
取材・原稿作成:あしたね取材チーム